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引越し手続のワンストップサービス実装にむけて

2019/05/31

今回は、官民連携のデジタル化の具体例として、政府で検討を進めている引越し手続のワンストップサービスの取り組みについて、ご紹介したい。皆さんも、就学や就職、転職や転勤などで、引越しを経験されたことがあるだろう。部下の職員に聞くと、30代なのに就職してから引越しを7回経験している者もいた。総務省の統計によれば、引越者数は、1年で約500万人。おそらく引越しを経験した方は身に染みて引越しの大変さを共感されることだろう。

引越しに伴う手続は多い。電気ガス水道の停止・開始の手続、自治体への転入届・転出届の手続等は真っ先に思い浮かぶだろうが、それら以外にも、民間手続も行政手続も引越しに伴って行わないといけない手続は多い。思わず手続を失念してしまうこともあろう。その不利益は、本人はもちろんのこと、手続の受け手事業者にも契約情報の管理コストとして重くのしかかる。仮に、手続を知っていても、そのたびに、氏名、旧住所、新住所など引越しに必要な情報を何度も何度も紙に書かなければいけない。自治体に行けば、長蛇の列で待たされて、うんざりされた方も多いだろう。ただでさえ、転勤を嫌がる若年層が増えてきている。令和の時代を迎え、これだけデジタル技術が進化したにもかかわらず、紙を中心とした従来の手続を、いつまで続けなければならないのか。民間手続も行政手続も一緒に一度にできるようにすることがデジタル手続法に規定されたデジタル化3原則の一つ、「コネクティッド・ワンストップ」の考え方である。気をつけなければいけないのは、ワンストップの「システムを作る」のではなく、ワンストップの「サービスを作る」ということだ。実現しなければいけないのは、利用者にとってより便利なものにするということであり、利用者の視点抜きで検討することはあり得ない。利用者(引越しをする方)の視点に立てば、今、私が指摘した「引越しの大変さ」は、実は手続の話だけではないことに気づく。引越しに必要な物件探しや引越業者探しなどは、民間サービスにより提供されており、引越しに伴う手続は引越しの大きな流れの一部に過ぎない。であるならば、引越しをする方が、民間事業者が提供する引越しに関する一連のサービスを受けながら、行政機関・民間事業者に対する引越しに伴う手続を一括で行うことが可能となるようにすべきであり、民間事業者が用意するポータルサイトがその窓口となるべきだろう。
このことに気づいたのは、内閣官房IT総合戦略室が開催したサービスデザインワークショップによるところが大きい。これは、サービスを体験する利用者の視点から、サービス全体をよりよく設計するための手法で、これまでの霞が関では考えられない検討手法だ。引越しワンストップサービスをどう構築するか、自治体職員、電気やガスなどの民間手続の受け手事業者、ポータルサイト運営事業者、ベンダーなど、関係する多種多様なメンバーが集まって、ファシリテーターの進行の下、ワークショップ形式で議論を積み重ねていった。

こうしたワークショップでの検討を経て4月18日に各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議で、引越しワンストップサービスの全体像とロードマップを決定した。引越しポータルサイトからの手続申請については、本年秋に実証実験を行い、2020年度から多くの自治体や民間企業での導入や民間手続の更なる拡大を図る。(こちらを参照

行政手続は、既にあるインフラとして存在するマイナポータルを活用し、電気ガス水道などの民間手続は、民間事業者が運営する引越しポータルと接続する。引越しポータルは、引越しに関するサービスを提供しながら、適切なタイミングで、利用者が引越しに伴う手続ができるように誘導する。何度も何度も繰り返し同じ情報を書き続けるわずらわしさは、ぜひとも解消させたい。
今後は実装の段階に入る。ワンストップサービスは関係者が多い。行政手続については、参加する自治体を増やさないといけない。事前申請の仕組みを入れるためにはBPR(業務改革)が必要だ。民間手続については、手続の受け手となる民間事業者の参加が大きな課題の一つだ。確かに、個々の民間事業者にとっては引越しポータルと接続しても必ずしも費用対効果がでない場合がある。デジタル手続法では、関係する民間事業者に、ワンストップサービスに協力する努力義務を課しており、この規定が大きな後押しになることを期待している。引越しポータルを運営したいという意欲のある民間事業者が複数いるので、彼らとともに、よいサービスを提供できるように努めたい。
人生のライフイベントに伴う手続は、省庁のように縦割りになっているわけではない。子育て、介護、死亡・相続、引越し等、ライフイベントに直面したとき、様々な関係者が関わる様々な手続が生じる。そのとき、ワンストップサービスを提供しなければならない余地が生まれるはずだ。冒頭紹介した、就職してから7回引越しした30代職員は、ワークショップでファシリテーターを的確に務めた、と聞いている。利用者としての体験は、行政サービスを提供する側にとっても、大変大事だ。これからも、利用者視点にたったワンストップサービスを追求し、関係者と一緒に協力しながら、国民の皆さまが便利さを実感いただけるよう、社会のデジタル化を進めていきたい。