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私たちは「AI」と、どう付き合っていくべきか

2019/04/23

最近、新聞やネット上で“AI”(Artificial Intelligence、人工知能)の文字を見かけない日はほぼない。社会の高い関心を集めているということだろう。これまでのAIブームと違うところは、プロ棋士を打ち負かすAI囲碁ソフト、安心して車の運転を任せられる自動走行、流暢(りゅうちょう)に通訳してくれる自動翻訳。さらには、熟練医の診察スキルと同等以上の医療画像診断支援など、社会・産業における実装が急速に進んでいることだろう。

他方で“シンギュラリティ“(技術的特異点)という言葉に代表されるように、将来のAIの発展に対して不安や恐れを抱く人も多いのではないか。今回は、AIに焦点を当てて、私たちはAIとどう付き合っていくべきか、政府の取り組みも紹介しつつ考えてみたい。

メリットを最大限に引き出すために
科学技術の進展はデジタル化、グローバル化と相まって加速度的に進んでいる。それは、私たちの日々の暮らしを豊かにしている。しかしその一方で、社会・産業に急速かつ多大な変革をもたらすインパクトを持つため、将来への不安や恐れを抱かせたり、実際に格差や偏った思考を生む可能性も潜んでいる。科学技術の「光」と「影」である。実際のところ、技術の進歩と社会実装はとまらない。

近年、AI研究は、大量のデータへのアクセスと計算機能力の劇的な向上とともに、ディープラーニングに代表される人間の脳の情報処理の仕組みを模倣した手法を組み合わせることによって、飛躍的な発展を遂げている。現在のAIは、画像や音声の認識、自然言語処理、自律システムの制御など広範な領域で人間と同等かそれを凌駕(りょうが)する能力を備え始めている。AIは、様々な分野でその道のプロフェッショナルをしのぐレベルに達するビジネスやサービスを実現し提供しつつある。

このような技術的進展を背景に、AIは、人間の作業を効率化し、ものづくりの生産性を向上させる、単純作業、危険な作業から人間を解放する、交通事故ゼロの社会を実現してくれるなど、私たち人間社会に多大なる便益をもたらしてくれるものとの期待が大きい。

しかしながら、応用される領域によっては人間をしのぐ能力を発揮するがゆえ、「AIに仕事を奪われるのでは?」「人間がAIに操られるのでは?」「個人データが漏洩(ろうえい)して国家に監視されるのでは?」「AIが人類に敵対するのでは?」など、将来のAIの発展に対して不安や恐れを抱く人もいる。社会全体がAIの便益を最大限に受けるためには、人々の不安を解消しながら、メリットを最大限に引き出さなければならない。

「AI-Readyな社会」とは
では、どのようにAIと付き合っていけば良いのか。それにはまず、我々一人ひとりがAIに対する高いリテラシーを持つことが必要だろう。そのために、未来に対する想像力を働かせ、実現すべき未来社会からバックキャスト的に、小中高、大学の各段階におけるAI時代の教育改革を進めること。ありきたりかもしれないが、これが最良の手段であろう。

私は、そのような観点から、有識者からのご意見も参考にしながら、現在、政府のAI戦略について検討を進めている。本年3月に政府が決定した「人間中心のAI社会原則」は、AIの社会実装を進めていくために、社会全体で留意し共通に理解しておくべき基本原則をまとめたものである。これは、人々がAIを受容し社会全体でAIを使いこなしていく上で不可欠な、政府のAI戦略の中でも極めて重要な役割を担うと考えている。

この「人間中心のAI社会原則」のなかで、実現すべき未来社会のビジョンとして「AI-Readyな社会」を掲げている。「AI-Readyな社会」とは、私たちの社会全体が変革し、AIの恩恵を最大限に享受できる、または必要な時にいつでもAIを導入しその恩恵を受けられる状態になること、としている。

具体的には、個人のレベルで言えば、すべての人々が仕事や生活でAIを利用できるようなリテラシーを身に付けること。企業のレベルで言えば、AIの活用を前提とした経営戦略に基づいたビジネスを展開すること。イノベーション環境という意味では、あらゆる情報がAI解析可能なレベルでデジタル化、データ化され、AI開発やサービス提供ができる状態となることである。

私たちは、AIを積極的に使いこなすことで、AIから最大限の恩恵を受けられるようなAI-Readyな社会を創っていかなければならない。
「人間中心のAI社会原則」では、そのために必要な、政府をはじめ産業界、アカデミア、ユーザーを含めた全てのステークホルダーが留意すべき7つの基本原則をまとめている。いくつかに絞って概要を紹介してみたい。

「人間中心の原則」
人々は、AIに過度に依存することで操られたりすることがないよう、誰もがAIを正しく理解し使いこなせるようにならなければならない。そのためには、誰もが数理・データサイエンス・AIに関するリテラシーを取得できる教育環境が必要だろう。また、AIは、人々の労働の一部を代替するのではなく、人間にとって高度で便利な道具であるべきであり、これによって人間が持っている能力や創造性を拡大するものである。さらに、AIを利用するにあたっては、人が自らどのように利用するか判断と決定を行うことが求められる。

「プライバシー確保の原則」
AI社会では、個人の行動データから政治的立場、経済状況、趣味・嗜好(しこう)が推定できることがある。このため、AI時代のパーソナルデータは、単なる個人情報という以上にその重要性や要配慮性に応じて慎重に扱われなければならない。また、パーソナルデータが本人の望まない形で流通し、利用されることで、個人が不利益を受けてはならない。

「セキュリティ確保の原則」
多くの社会システムがAIで自動化される時代において、例えば政府機関や重要インフラ事業に関連する情報システムがサイバー攻撃を受けると、社会機能に深刻な悪影響を及ぼす恐れがある。希少な事象や意図的な攻撃まで含めて常に完璧に対応することは不可能ではあろうが、AI利活用による利益とセキュリティリスクのバランスに留意し、社会全体として安全性と持続可能性を維持しなければならない。

「公平性・説明責任及び透明性の原則」
AIの利用者が人種、性別、国籍、年齢、政治的信条、宗教等のバックグラウンドを理由にして不当な差別を受けてはならない(公平性)。
AIは、従来のプログラムと比較してブラックボックス性が高いが、(AIによる判断根拠を技術的に示すべきということでなく)AIを利用している事実、データの取得方法や使用方法、AIの動作結果が適切なものとなるための仕組みなどを説明しなければならない(説明責任)。AIの利用・採用・運用について、開かれた対話の場が適切に持たれなければならない(透明性)。また、AIとそれを支えるデータについて、信頼性が担保されなければならない(トラスト)。

AI社会原則をまず策定した意味
現在検討中の政府のAI戦略は、人材、産業競争力、技術体系、国際の4つの戦略目標で構成し、夏ごろまでに最終決定する予定である。
なかでも、この「人間中心のAI社会原則」を先行して議論、決定したのは、目指すべき社会像をまず明確にすることが戦略策定の前提であったからに他ならない。なぜ、私たちはAIを使うのか。「人間中心」という意味を真に理解し、私たちが実現すべき未来社会のビジョンに向かって、より良い持続可能な社会を創っていくためにAIを使うのである。決して、AIを使うこと自体が目的ではないのである。
この基本をまず広く共有できてはじめて、AIの研究開発、社会実装の方向が明確になるだろう。

現在、世界各国でも同様に、AIの倫理ガイドラインの検討が進んでいる。今後、AI分野の国際的なルール作りに発展していくと考えられ、これに日本は積極的な貢献をしていくべきである。それには、日本と価値観を共有できる国や地域との連携がまず重要で、これまで培ってきた日本の国際的な高い信頼は、このような検討の国際場裏において極めて有効に働くだろう。例えば、EUのような日本と考え方の近い国や地域とも積極的に協調、連携しながら、G20やユネスコの会合など、様々な国際会議の機会をとらえて、日本のAI社会原則を発信しAIの国際的なルール作りに貢献していきたい。これが引いては、AIの研究開発や社会実装で世界をリードすることにもつながるはずである。