『地上デジタル、ここでつまずく!』
衆議院議員 平井卓也

幾多の難題を引きずったまま、地上波デジタルが放送を開始しようとしている。機会を捉えて、再三計画に警鐘を鳴らしてきたが、根本的な改善には至らなかった。が、この問題を注視してきて、ひとつだけ明らかなことがある。地上波デジタルは「国策」を謳いながら、まったく国家プロジェクトの体を成していない、ということだ。そしてその原因に、官僚的な縦割り行政の硬直姿勢がある。政治家という立場から、特にこの点を指摘したい。

言うまでもなく、地上波のデジタル化は、単に現行の地上放送をデジタル電波に変えるという技術的な問題にとどまらない。デジタル革新の呼号のもと、国家資本ともいうべきテレビ放送システムを、送信・受信双方において刷新させ、それにまつわる行政制度や関連業界の体勢すら変革させようという、極めて社会性の濃い大事業である。しかるに、それに対処すべき官庁の区分や関連法は従来の旧態を存続させたままであり、さらには、総務省の単独登山のような状態になっている。

例えば、共同受信世帯への対策。私は、デジタル化がつまずく大きな要因にこの「共聴対策」があると考えているが、全国の過半を超える共聴設備での視聴世帯について、未だに明確な対処方針が打ち出されていない。しかも、その費用負担は「利用者の自助努力」に頼むという無責任さだ。直接受信世帯には「アナアナ変換」作業が、予算修正してまで国費で賄われ、多数を占める共聴受信には全く無策という有り様で、国民の納得が得られるはずがない。これで国策と呼べるのか。

共聴対策は、ひとり受信世帯に対する問題だけではない。家電メーカーや販売店にとっても重大事である。一口に共聴と言っても、建築の新旧や更新状況により、配信設備の仕様が異なる。各戸に繋がる同軸ケーブルの種類や性能を認識している世帯も少ないだろう。つまり、デジタル対応受像機に買い換えたものの、棟内の設備によってはテレビが見られないという世帯が頻発する懸念がある。クレームの矛先が向くであろうメーカーは、訴訟にまで発展する可能性を危惧し、安心して量産や宣伝の体制を組めない。また、家電量販店も、受信事情の違う客への個別対応の煩雑さから、積極的にデジタルテレビを薦めることはしないだろう。販売店もまた苦情窓口となる恐れがあるのだ。

メーカーや小売サイドの意見には「どうして経済産業省が地上デジタルに参加していないのか」という慨嘆が多いと聞く。所轄官庁である経産省の裏書がないことで、さらに計画の信憑性を不安視しているようだ。確かに、もはや生活必需品といえるテレビ受像機の製造・販売に関わる分野で、経済産業省の加担がない、というのは、国民の視点で考えても不都合に過ぎるのではないか。メーカーが安心してモノを作れなければ、低価格化や性能向上など成し難いだろう。しかも、カラーテレビの劇的な普及に象徴される高度成長期とは、背景要因が全く異なっているのだ。本来なら、関係省庁はじめより強力なバックアップ体制が必要なはずである。

総務省は、地上波デジタル化に向けて、すでに幾多の組織を成してきた。が、今に至るまで、経産省はじめ他の省庁が積極的に加えられたことはない。総務省・NHK・民放で構成した「地上デジタル放送懇談会」に始まり、その発展形の「全国地上デジタル放送推進協議会」、さらにメーカー各社や広告代理店をも巻き込んだ現行の「地上デジタル推進全国会議」など、呼称こそマイナ・チェンジしているが、実態は常に総務省が旗振りであり、過剰なデジタル投資に泣く放送局側が渋々追従しているというのが実状だ。地上デジタルは総務省の専行事案であることを疑う余地はない。にも拘わらず、いつも責任の所在が曖昧にされている。アナアナ対策の見積違いが指摘された際にも、どこもはっきりと責任をとらぬまま、結局、電波料の増額という禁じ手を行使することでウヤムヤになってしまった。

それどころか、地上デジタルを、情報通信政策局・放送政策課の「課策」と断じる声もある。国策どころか「省策」にすらなっていないという批判である。こうした意見の真偽を図る術はないが、奇しくも8月になって省内に「総務省地上デジタル放送推進本部」なる組織が発足している。総務大臣を本部長に、一応、関連部局を網羅した構成らしい。が、今ごろ省の推進本部とは…。先述の苦言もまんざら誇張ではないと思えてくる。

とにかく、走り出したデジタル化をつまずかせないためには、予算措置も含めた強力な推進体制を作ることが急務だ。また、デジタルの本質を活かし、速やかに全国に放送経路を確立する上でも、通信分野との融合政策は不可欠である。従来の放送行政の枠内で思考・行動していたのでは国民の不利益を生むだけだ。まずは省内や省庁間の縦割り意識を打破しないと、社会インフラを再構築するような斬新なプロジェクトは果たし得ないだろう。

地上デジタルは、国のIT施策の中でも重要な案件と位置付けられている。もっと大胆果敢に、そして細心に進行すべきだ。例えば、総務・経済産業・国土交通の3省を交えて「地上デジタル放送推進室」を内閣府内に組織し、必要によっては担当大臣を任命するくらいの大きな取り組みであって良いはずだ。

政治主導で、本当の意味での「国策」としての実態を整えないと、国民を豊かにするデジタル放送社会は遠いままであろう。

(GALAC 10月号 掲載)
(終)