<勇気あるいったん停止を>
「地上波デジタル計画は破綻する」Page01

【迷走する“国策”】

本誌2002年4月号で「地上波デジタル計画は凍結せよ」と題する寄稿をさせていただいた。大多数の国民が日常的に見ているテレビ「地上波アナログ放送」を停止、全てデジタル波に替えるという「地上波デジタル計画」の無策ぶりを顕わにして問題意識を喚起し、政策の是正を促すのが論旨であった。果たしてその反響は大きく、テレビの将来像に対する国民の関心の高さを窺い知ることができた。後を追うように他紙でもデジタル化計画を疑問視する論評・記事が相次ぎ、党内でも疑義を唱える声が高まった。

ところが、説明の求めに対し、所轄の総務省はお題目のように「スケジュールどおりのデジタル化実施」を繰り返すばかり。争点であるアナアナ変換の実施費用を見直し中ということもあり、デジタル移行作業は暫時の停止状態に置かれた。

ドッグイヤーの名のとおり、その間にも状況は刻々と変容する。デジタルテレビ需要の起爆剤と期待されたBSデジタルの不振。地上波デジタル化で先行する欧米諸国での混迷ぶりも深刻の度合いを増して伝わってくる。難視聴対象の拡大など、新たな問題も顕在化。さらに私の予想どおり、再調査の後に発表されたアナアナ変換費が大幅増に修正されている事態を目の当たりにし、国会議員として傍観する訳にはいかなくなった。

言うまでもなく、テレビ放送は国民にとって重要な情報入手手段であり、かけがえのない娯楽である。にも関わらず、その公器の将来を決定づける政策において、経費の大幅な読み違いや見込まれていなかった問題点、関係各所からのクレームなどが後から後から噴出する状況は、国策として異常だといわざるを得ない。

すべては、国民の視点を外した政策スタンスに問題の根源がある。官庁の理屈や企業の都合で政策を盲進してはならない。国民不在の議論にいますぐ終止符を打つべく、あえて再びペンを執った。

まずは、問題を整理する意味でも、国が掲げる地上波デジタル移行計画をおさらいしておきたい。

日本における地上波テレビのデジタル化の主目的は、過密状態にある電波帯域を整理し、移動体通信などに空き帯域を確保すること、そして先行する欧米諸国へのキャッチアップにあると言われている。

具体的な作業としては、まず前出「アナアナ変換」の実施から始まる。デジタル波への完全移行までの間は、現行のアナログ波と同時に同じ番組を流す「サイマル放送」が必要。そうすると、ただでさえ混雑している電波帯域がさらに逼迫し、両波の混信が生じるエリアがでてくる。これを防ぐために、現在放送中のアナログ波を、一時的に新デジタル波の干渉のない周波数帯域に移動しなければならない。アナログ波を別のアナログ帯域に置き換えるので通称「アナアナ変換」。即ち、一時的な混信対策である。

このアナアナ変換を施しつつ、2003年末までに東・名・阪の三大広域圏でデジタル放送を開始。続いて2006年末までにその他全域でデジタル波を流し始める。サイマル放送期間を経て、2011年7月で地上波アナログ放送を完全停止…。これが我が国の地上波デジタル化計画のスケジュールであり、2001年6月に電波法改正案として国会を通過した国策である。つまり、首都圏・中京・近畿域の放送局は来年中にデジタル波を発放していなければならないことになる。それが本当に可能なのだろうか。

【見込み違いのアナアナ変換費】

1800億円…。総務省、NHK、民放で組織する「全国地上デジタル放送推進協議会」が、今年7月に発表したアナアナ変換費の修正見積金額である。改正電波法成立時の同経費見積り727億円に対し、実に2.5倍にあたる大幅増となった。

この計算違いの理由は前掲の寄稿に詳述したのでここでは割愛するが、アナアナ変換対象世帯数の掌握ミスが原因だ。放送電波の周波数を変えるアナアナ変換は、受信世帯のアンテナの向きやチャンネル設定変更まで余儀なくする煩雑な作業である。しかも、県域をまたいで放送電波を受けているエリアなど対策に手間の掛かる世帯が相当数にのぼるにもかかわらず、それを積算に入れていなかったのだ。国策というにはお粗末極まりない。  アナアナ変換費は「電波利用料」を財源とする旨が改正電波法に謳われている。アナアナの増額に伴い、総務省はこの電波利用料の値上げを模索している。電波利用料とは、携帯電話会社や放送局などが国に納める使用料的なものだ。同省は、これを一気に増額して膨らんだアナアナ変換費に充てようと目論んでいるのだ。

しかし、これにはまず携帯電話各社が反発。放送電波のための施策に、何ゆえ通信事業者ばかりが多大な拠出を強いられるのかと抵抗を示す。そこで総務省は矛先をこっそりと放送局に向け、局の電波利用料を数十倍に引き上げるべく画策中らしい。しかし、国策であるデジタル化のアナアナコストは現行の国費で賄う前提であり、片山総務大臣も7月の記者会見で「アナアナ変換のための電波利用料値上げはせず」と公言している。ここで総務省が値上げを断行すれば放送業界を欺いたことになる。混乱は必至だ。

こうした中、総務省は、デジタル放送開始スケジュールの一部延期を容認する発表を行った。あくまで元来のスケジュールに拘っているものの、03年末の三大広域圏の放送開始を、弱い電波で限定エリアからのスタートとし、徐々に広げていく方針に変更。三大圏全域にデジタル波が行き届くのを06年度中とした。同様に、全国でくまなくデジタル放送が受信できる状態になるのは、09年度になるとの見通しを示した。ともに当初計画から3年遅延ということになる。しかし11年のアナログ停波は「不変」のままだ。

続々と問題を排出する「アナアナ変換」はまさにデジタル化の“鬼門”。しかし問題はこれに留まらない。さらに新たな難題がデジタル化の前に立ちはだかる。

【“ビル陰”の誕生】

まずは「ビル陰問題」の浮上である。

 

写真を見ていただきたい。
東京タワーの先端から少し下がったところに、リング状の構造物が見える。これが地上波デジタル用の送信アンテナであり、国の方針に従って今年6月に設置された。ところが、ここに思わぬ問題が生じた。デジタル波はアナログより高周波なため直進性が強い。送信アンテナの高さが下がると、当然電波の到達高度も下がる。ビルが電波を遮る地域においては、放送受信ができなくなる世帯が増加する。つまり、新たな難視聴地域を生むことになるのだ。従来は、ビルが電波塔の後から建てられていたので、ビルの事業者が難視聴対策を講じていたが、今回はデジタル波の方が後だ。では、一体だれがこの補償措置を施すのか。総務省がそのための財源を確保したという話は聞かない。

ことは東京に限らない。名古屋では、同様の理由で従来の名古屋テレビ塔を地上波デジタルに使用できないことが判明。瀬戸市に代替の鉄塔を建設中である。これまた難視聴地図を大きく塗り替えることになるだろう。高層ビルが林立する昨今、同じような事態は全国各地で起こり得る。東京では上野に高さ600mの新東京タワーを造るという対案まで出ているようだが、建設費や景観、電磁波問題などで“無用の長物”扱いされることは目に見えている。

問題は、空中を飛んでくる電波ばかりではない。集合住宅の共聴設備という難題もある。

一括して同軸ケーブルによる共聴を行っているマンションなどでは、その設備が現行のアナログ放送とBS、CSの一部の放送程度までしか伝送できないのが普通であり、VHF帯(1〜12ch)にしか対応していない古いマンションも数多く存在する。これらの世帯では、仮に総務省のご指導どおりにデジタル受信のチューナーやテレビに買い替えても、地上波デジタル放送を見られない。視聴のためには、マンション内に巡らされている同軸ケーブルや信号増幅装置など共聴の受信設備を取り替えなければならないのだ。

これは決して一部の特異な事例などではない。都市部の世帯数の内、集合住宅は過半数を占めている(東京都66.2%、大阪府52.3%)。さらに共聴問題は集合住宅に限らない。ビルや送電線による電波障害対策を目的とした共聴の利用者や商業ケーブルテレビの加入者も含めると、同軸ケーブル経由でテレビを視聴している世帯は約2,600万世帯にもなり、国内全世帯の過半数をも超える。問題は実際の影響世帯数と対処費用だが、さる放送関係者や複数のケーブルテレビ事業者の調べではその数1,000万世帯以上に及び、共聴設備の更新に掛かる総額は数千億から1兆円以上に至ると予測する。アナアナ変換費をはるかに凌ぐ額だ。

この費用の出所について、総務省は昨年の通常国会で「視聴者の負担となる」と言明している。即ち、マンションのオーナーか、管理組合(住人)が独自でやり替えなさいというのだ。上記の予測どおりだとすると、一世帯あたり平均10万円前後の支出が、デジタル受像機の購入費とは別に発生することになる。各戸の負担額がこれほど多くなると、住人同士の合意形成も困難を極めるだろう。社会問題化の危惧すらあるこの重大事に対し、無策で許されるはずがない。

このような事態に対して、国民への周知はほとんどなされていないのが現状だ。それどころか、依然として地上波デジタル化についての認知度は極めて低い。僅かに9%の国民しかデジタル化について知らない、という最近の調査結果もある。家庭内の全てのテレビをデジタル対応機種に買い換えねばならず、場合によっては共聴設備の費用分担まで強いられようかという政策なのに、肝心の国民の多くはデジタル化の事実すら知らないというのだ。

そもそも地上波デジタルは、国民に自発的なニーズがあるものではなく、「時代の必然、世界の趨勢」という理由において行政主導でなされてきた。ゆえに、認知を高め、ニーズを喚起する方策を常より徹底せねばならないはずである。

BSデジタルの低迷ぶりをみてもそれは明白だ。地上波デジタルの牽引役と期待され、00年12月にスタートしたBSデジタル放送だが、各局とも視聴者獲得に大苦戦。「1000日1000万台」の皮算用も空しく、デジタル受像機の販売台数は伸び悩み、放送開始2年近くを経て143万台(02年8月末時点。JEITA調べ)にしか至っていない。ソルトレーク冬季五輪や日韓W杯といった目玉コンテンツがあったにもかかわらず、だ。ニーズどころか、デジタル転換政策すら満足に周知されていないのに、この不況下で買い替えが促進されるわけがない。

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