「アナログテレビはなくならない」[Page01]
〜地上波デジタル凍結を提言する〜
<目次>
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テレビが見られない!?
地上波のデジタル化とは
デジタル化の経緯
放送デジタル化のメリットはあるのか
デジタル化は「いばらの道」
いくらかかる?「アナアナ変換」
米英であいつぐ地上デジタル放送計画の延期
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・国民のニーズはあるのか
・総務省よ、どう責任をとるつもりだ
・インターネット利用者数の推移
・「国民主体」の解決策を
・地上波デジタル化の凍結
・通信との共存で放送サービスの向上を
・放送の役割とアナログの機能
テレビが見られない!?
「ある日突然、自宅のテレビが見られなくなる…」。ちょっと想像に難い状況だが、そんな事態がいま現実に進行している。しかもその原因を作っているのが「地上波テレビのデジタル化」計画という、れっきとした国策なのだ。

私は大学を卒業後、広告代理店「電通」に入社し、民放のセールス枠を管理する編成業務を長く担当した。その後郷里の香川に戻り、当時としては最年少で地元民放局の社長に就任。約10年に渡りその職を勤めた。いわば、人生の多くを地上波テレビに関与して過ごしてきたことになる。

衆議院議員の大任を拝命して1年半余。政治というスタンスでテレビ行政に関わる今、私が愛するテレビ放送と、生活を守るべき国民が、ともに理不尽な不利益を蒙るかもしれない状況を目の当たりにして、その事態に警鐘を鳴らし、改善の道を探るのは、自身の来歴に鑑みて私の責務であると自認するものである。そこで、この誌上を借りて問題を喚起し、かつ解決策を提案したい。

メディアのデジタル化そのものは、加工の容易さ、劣化の少なさ、パッケージ化のし易さなど、多くのメリットがある。私もデジタル化という大きな潮流に異を唱えるものではない。最も卑近な例がCDであろう。出た当初すら「味気がない」や「音が硬い」といった情緒的な批判もあったが、今やCDの性能や便利さを疑う人はいない。その他、ビデオカメラや携帯電話など、デジタル化によって性能・機能が向上したものは、枚挙にいとまがない。また、インターネットやe-mailなど、今では当たり前のように使いこなす情報通信ツールの数々も、すべてデジタル技術の恩恵である。
しかし、いいデジタル化と悪いデジタル化の差はあるのではないだろうか。現状のままでの地上波放送のデジタル化は「悪いデジタル化」だと考える。「あまねく普及」を達成し、多くの国民が日常的に享受するメディアとして定着した地上波テレビにおいて、デジタル化計画の杜撰さ、見通しの甘さゆえそのユニバーサル・サービス性が途絶の危機に瀕していることを、私は看過できない。
地上波のデジタル化とは
「地上波デジタル化」という言葉は多くの国民が耳にしたことはあると思うが、内容まで理解をしている人は案外と少ないのではないか。

大多数の国民が日々視ているテレビ放送、即ちNHK総合と教育、そして民放各社のテレビは、現在アナログ放送である(BSデジタル放送を除く)。東京タワーなどの送信設備から、中継局を経て地上に沿って放送電波を送信するところから、これは広く「地上波放送」と呼ばれる。NHK、民放あわせ約50年の歴史を支えてきた放送システムがこの「地上波アナログ放送」である。ここで地上波のデジタル化とは、言葉どおり、従来のアナログ式放送を、デジタル方式に変更することを指す。このデジタル放送は現在の放送設備や電波塔では送信する事ができず、また現在普及しているテレビで受信することができない。つまり、地上デジタル放送が実現するためには、局の設備も一億全国民の家庭のテレビも総とっかえで、変更される必要がある。これを法制化して10年がかりで実現しよう、というのが地上放送のデジタル化計画である。

デジタル化の経緯
このデジタル化が、地上波放送の領域で法制化された経緯を、まずはふりかえりたい。

日本で地上波放送のデジタル化が政策的に公言されたのは、1997年のことである。3月、郵政省(現総務省)の幹部が「地上放送のデジタル化に向けた取組み」を発表。業界は騒然となった。

先に触れたように、デジタル化自体は時代のトレンドであり、放送においてもBSやCSなどのデジタル化計画はすでに進んでおり、遠くない将来に地上波もデジタル化の洗礼を受けるであろうことは業界内でも当然と考えられていた。が、郵政省の突然の計画発表は「2000年以前にデジタルでのサービスを開始する」というもので、その拙速ぶりに当の地上波テレビ各社は面食らったのである。

郵政省がデジタル化を急いだ背景には、欧米諸国が近いうちに相次いで地上波のデジタル放送を開始する(米英では1998年から実施)ことに対する焦燥感が根強くあったと思われるが、いずれにせよ実現性の検討を仔細に行う前に、早いタイミングでのデジタル化構想がうちあげられた。

2000年暮れから始まるBSデジタルへの参入を控えていた民放が、地上波デジタル化による更なる負担増を危惧してこれに反発。結局、郵政省と放送業界の思惑を調整するため「地上デジタル放送懇談会」を設立し、これにあたった。

上記の経緯で見る限り、この計画は成り立ちから準備不足の様相を呈していたことが伺える。そして何より、国民の意向を無視したところで、当初から議論がなされていたということである。

ともかくも1年数ヶ月の時を経て98年10月に「地上デジタル放送懇談会」の報告書がまとまり、デジタル化移行のプランが発表された。デジタル化導入については「これらの(註・アナログテレビジョンの)膨大な中継ネットワークでアナログ放送を並行的に行いながら、アナログ方式のネットワークに代替するデジタルネットワークを整備しなければならない」とした上で、基本的考え方として

1)アナログ放送からデジタル放送への全面移行を早期に実現する。その際、放送事業者の低コストでの移行が実現するよう配慮する。

2)行政当局及び放送事業者は、地上デジタル放送の放送対象地域別の導入スケジュール及びアナログ放送の終了時期の目安を可能な限り明確化するよう努める。

3)現行アナログ放送との周波数調整を少なくすることにより、円滑な移行を促進するとともに、アナログ放送を並行的に行いながらデジタル放送ネットワークを整備する既存事業者の負担に配慮する観点から、新規事業者の参入機会は、原則としてアナログ放送終了後とする。

4)衛星放送、ケーブルテレビ、地上放送の3つの放送システムが、デジタル化によって、それぞれの役割が発揮できるようにする。特に、地上放送については、既に国民に広く普及している基幹的放送メディアとしての役割が更に発揮できるようにする。

5)視聴者側が無用な混乱を生じることがないよう、行政当局、放送事業者、機器製造業者等の関係者が連携し、視聴者にとって円滑な移行方策の実現を図る。

と記している。

そして、具体的には概ね以下のようなスケジュールでデジタル化が進行することになっている。

・ 2003年末までに関東、中部、近畿の3大広域圏の一部でデジタル放送開始

・ 2006年末までにその他地域でのデジタル放送開始

・ 2011年に地上波アナログ放送の停止

このプランは電波法の改正案に内容として盛り込まれ、昨年の通常国会で承認された。つまり、2011年には、家庭にあるアナログテレビは、この法律が実施されれば全て使えなくなる。それまでの間に、各家庭・個人は、デジタル受像機への買い替えをしなさい、というのが、即ち国策としての地上波デジタル化の結論なのである。

放送デジタル化のメリットはあるのか
上記の状況だけみれば、いささか乱暴な気がする。そもそも、今の地上波放送は、当の郵政省の指導や放送各社の努力もあって全国あまねく電波が到達し、かつ受像機の購入価格もおさえられ、さらには無料受信が可能(NHK受信料はあるが)という、まさにユニバーサル・サービスの典型ともいうべき成果を成し遂げている。しかも、日本国内でのアナログテレビの普及台数は、実に1億台を突破している。なのに、なぜかくも急いでデジタルに移行しなければならないのか。そこには本来、強力な理由付けと、十分な協議および内容の説諭が必要なはずである。殊に、視聴者である国民の視点に立った説明が不十分である。単に「欧米諸国に遅れをとるな」ではいかにも稚拙かつ独善的な感が否めない。先の「地上デジタル放送懇談会」報告書に、いま少し根拠を求めてみよう。

報告書では、「(地上放送が)アナログアイランドとしてとどまれば、基幹的な放送メディアとしての地上放送の役割が将来も続くことは期待できない。地上放送が、21世紀においても情報通信メディアとして、自ら飛躍し、我が国の文化、経済、社会等に大きく貢献するためには、デジタル化は喫緊の課題である」とした上で、デジタル化による視聴者のメリットとして、以下のような内容を列記している。

1)高品質な映像・音声サービスの享受
劣化が少なく、雑音やゴーストの解消ができる。高精細度放送も視聴可能。

2)チャンネルの多様化の実現
従来のアナログ波の帯域で3チャンネル程度のデジタル放送が可能。
チャンネルの多様化が実現し、選択肢が拡大。

3)テレビ視聴の高度化が可能

デジタル受像機には大容量のメモリーが搭載されるため、番組や文字データの蓄積や再生が容易。また、通信ネットワークと組み合わせ、番組への視聴者参加や番組関連情報の取得など、双方向的な番組視聴が可能。

4)高齢者・障害者にやさしいサービスの充実
データ放送との組み合わせで、字幕・解説サービスの充実や、音声速度の変換など。

5)安定した移動受信サービスが可能
自動車等の移動受信においても、きれいな放送の受信が可能。

なるほど、これらのメリットが顕在化すれば結構なことかもしれない。しかし、一斉デジタル化の根拠とするにはいずれも必然性が低く、また実現に疑念を感じるものもある。

まず雑音やゴーストによる難視聴の解消については、すでに多くの世帯がCATV加入などによって解決している。わざわざデジタル化にその手段を求める人はいないだろう。高精細度放送、つまりデジタルハイビジョン放送の需要の低さは、BSデジタルの盛り下がりを見れば明らかである。多チャンネルにしても同様。いくらチャンネル数が増えてもハイビジョンで綺麗に見えても、魅力的なコンテンツがなければ視聴者は支持しない。しかも、ただでさえソフト不足が懸念される中、経営が苦しい民放ローカル局までが多チャンネル放送を実現するなど考えにくい。テレビ視聴の高度化やサービスの充実においては、その性能を備えたハード(デジタル受像機)がいくらで購入できるかにかかっている。高機能をうたっても、購入をためらうほど高価であったり、操作が難解であれば、そのメリットは顕在化しない。だが、発売から1年余を経たデジタルテレビ受像機やデジタルチューナーは、普及の鈍さからいまだに廉価を実現できないでいる。

確かに、デジタル化によって、メディアとしての放送の機能や役割は向上するだろう。それは他の技術分野を見ても容易に想像がつく。が、このデジタル移行プランがすんなりと進行し、やがて始まる地上波デジタル放送で、全ての国民が娯楽や利便を享受できるという前提があっての話である。

しかし、計画が実行に移ってからというもの、様々な問題が浮き彫りになり、もはやその実現すら危ぶまれる状況に陥っているのである。そのことを、一体どれほどの国民が知っているのか…。

デジタル化は「いばらの道」
経緯はともかくも、スタートを切った地上波デジタル化計画。しかも欧米への追随を根拠とする以上、そのタームは決して長くない。民放キー局とローカル局のデジタル化投資に対する体力差や、東経110度CS放送によるネットワーク不要論、放送局機能のハードとソフトの分離論など、当初からその早期実現の必要性や可否について問い糾す声が多く聞かれた。

さらに、地上放送のデジタル化には、もうひとつ大きな目的が含まれている。「移動体通信」のための電波帯域確保、である。移動体通信とは即ち携帯電話のことであるが、急激な携帯電話の普及により、周波数帯域の一層の飽和が懸念されるようになってきた。そこで、地上波のデジタル移行が済むと「空き地」になるアナログ波の帯域を、そっくり移動体通信用に利用しようというプランである。つまりは、地上放送のデジタル化と移動体通信の帯域確保を一緒にやってしまおうという省庁の作戦である。そこには、放送と通信という業界同士の綱引きの構図も見え隠れする。

しかし、これらは、放送事業者や通信事業者、そして電波行政を牛耳る郵政省などが絡んだ、あくまで当事者間の問題であり、いわば内輪の議論であった。私も当時ローカル局の社長という立場でこうした議論の多くに参加し、また会社としての対応に苦慮しもした。

しかし、類火が国民生活に及ぶとなると、話は別である。デジタル化という巨人が実際に歩を踏み出してからというもの、国民の不利益に繋がる問題が噴出してきたのである。

いくらかかる?「アナアナ変換」
中でも最大の問題とされるのが、「アナアナ変換」という、デジタル化の事前準備作業にかかるコストだ。

現在の地上波テレビ放送に利用されている電波の周波数はほぼ満杯。しかし現行プランだと、デジタル放送に完全移行するまで、放送局は新しいデジタル波と従来のアナログ波の両方を送信しなければならない。対象エリアの住民が一気にデジタル受像機に買い換えるなどありえないので、移行期間、両方の電波で同じ内容を送信する「サイマル放送」を行う必要があるのだ。そうすると帯域がさらに切迫し、両波の混信が生じるエリアが出てくる。つまり、ある地域ではアナログ・デジタル両方とも満足に見られないという悲惨な状況を招くことになる。

そこで、アナログ電波を一旦整理する「アナアナ変換」という面倒な作業が生じる。簡単に言えば、現在放送中のアナログ波を、一時的に新デジタル波の干渉のない他の周波数帯域に移動させる作業で、対象となる世帯ではアンテナやチャンネル設定を変更しなければならず、その地域をカバーする中継局でも設備の変更が必要になる。アナログを別のアナログに置き換えるところから「アナ→アナ」変換と呼ばれている。例えるなら「引越し中の一時転居」といったところか。

この「仮住まい」のために、予測を遥かに上回る膨大な費用がかかることが判明したのは、お粗末にも先の電波法改正以降のことである。

総務省ではその費用を当初852億円と見積もっていた。変更作業の対象世帯数は246万世帯。しかし財源がない。放送界もそんな過負担はできないと反発する。そこで苦肉の策として「電波利用料」を充てることとし、昨年の電波法改正にその旨が盛り込まれた。電波利用料とは、主に携帯電話事業者が国に支払っている費用である。これはようするに、財務省(税金)の世話にならなくてもデジタル化が可能であった(はず)ということである。

しかし実現に向けて実態を探るうちアナアナ変換コストが当初予想の852億を遥かに超え、2,000億円以上掛かることが確実視されてきた。2001年11月に、「全国地上デジタル放送推進協議会」(総務省、NHK、民放で組織)が発表したデータによると、影響世帯数は190万世帯も増え、436万世帯に及んでいる。この誤算の原因の多くは、瀬戸内地域や関東北部、北九州の一部エリアなど放送電波の混雑地域では、テレビ視聴者の多くが、県域放送だけでなく他の地域からの電波を受信していることが把握されていなかったためである。また、ケーブルによる対策を要する世帯の実数認識も大きく変わっている。

その後の調査でさらにこうした極地的な例外事項が噴出し、アナアナ変換コストの実数は算定不可能とまでいわれている。一体このコストをどこが負担できるのだろうか。下手をすれば第二の住専だ。アナアナ変換が不可能とすれと、その先の完全デジタルへの移行などありえない話となってしまう。「山の彼方(あなた)の空遠く」デジタル波を飛ばそうにも、「闇のアナアナ、程遠く」という、笑えない状況だ。

総務省では、対策経費を抑えるためとして、電波混雑地域での「セットトップボックス」無償配布も検討しているという。セットトップボックス(STB)とは、地上波のほかにBS,CS放送電波の受信やインターネット接続など、家庭に入るデジタル信号の集約や内蔵ハードディスクによる記録保存の機能を持つ情報端末だが、ここでは限定的にデジタル波を現行のアナログテレビで見られるようにする専用チューナーと考えていいだろう。これを、地域によっては無料で配ることも考えているというのだ。多くの国民にデジタルテレビへの買い替えを促す政策をつくっておきながら、ある地域の住民は無料でデジタル放送を見られるという不公平な行政が許されるわけがない。その境界をいったいどこで引くのか。また、強力にデジタル化のメリットを謳いつつ、一方でデジタル放送を従来のアナログテレビで見るための装置を配るという矛盾を、どう説明するのか。当の総務省自身が「アナログテレビはなくならない」と言明しているに等しい。

これらはすべて、地上波デジタル化を世界の趨勢として不可避のものとし、まずデジタル化ありきの発想からスタートしていることが根源となっている。国民不在政策の粗暴さといわざるをえない。

2001年11月「全国地上デジタル放送推進協議会」発表データより
米英であいつぐ地上デジタル放送計画の延期
先述したように、日本の地上波デジタルの発端には、先行するイギリス、アメリカに対する焦りがあったと指摘される。そのことは、片山総務大臣が、電波法改正前の総務委員会でデジタル化の意図を問われ「デジタル化は世界の大勢だと思っております」と答弁されたことからもうかがえる。

米英両国は世界に先駆けて1998年から地上波のデジタル化に踏み切った。しかも両国ともに日本の放送事情に比して圧倒的にデジタル化に有利な環境にあったのである。それにも関わらず、両国の地上波デジタル化の進展は極めて難渋している。

世界最大の市場規模として期待されていたアメリカ。ATSCという米国方式を作ったのはよいが実際にデジタル受信している世帯は4%程度でしかなく、事実上地上デジタル放送計画は頓挫する状況になっている。経済不況及びテロの影響により放送業界は厳しい経営状況に直面しており、ついに政府はデジタル化移行へのガイドライン修正を余儀なくされた。

昨年11月に発表されたその内容は

@放送局に対してデジタル化スケジュール提出の延期を認める。

Aデジタル放送は、担当エリアの85%でよい。

Bデジタル放送は、プライムタイムのみでよい。

など、2004年までに全面デジタル化を義務づけていた方針を撤回し、放送局に対してデジタル化の準備が整ってからで良いという方針に変わっている。そもそもアメリカでは70%の普及率を誇るケーブルテレビ事業者がデジタル化をして、初めて放送のデジタル化が成し遂げられるのであるが、これは現在衛星デジタル放送との競争に直面したCATV事業者の自助努力により、次第に成し遂げられようとしている。

一方、イギリスはアメリカに比べまだスタートは良かったといえよう。欧州の歴史や国土柄、電波利用を抑制してきた経緯があり、新たな放送方式が必要とされる素地はあった。アメリカ文化の流入を抑えるためPALという放送方式(米・日はNTSC)を採用したり、東西冷戦のさなかに欧州国家間の情報合戦になることを恐れてチャンネル数を限定してきたことが、地上波のデジタル移行をスムーズなものにする、はずだった。が、先頃イギリス政府は、当初予定していた2006年から2010年の間でのアナログ波の停止を、2010年以降に延期する旨を発表した。英国では、視聴者の1/4にあたる1,150万人が、アナログテレビをデジタルテレビに買い換える意志が全くなく、セットトップボックスを買う意志もないと答えている。業界の調べでは、昨年12月から今年1月までに販売された200万台のテレビのうち、デジタルSTB内臓テレビは約4万台に留まった。「デジタル革命」を呼び声に売込み攻勢をかけても視聴者を動かせないという現実を前にして、テッサ・ジョエル文化相らは5年以内にデジタル放送を普及させるという目標を達成できないと認めるに至った。現在デジタルテレビを視聴している国民は全体の40%にすぎず、英政府は95%がデジタル放送に切り替えるまでアナログ放送を打ち切らない方針を示した。

世界に先駆けて地上放送のデジタル化を試みた米英両国は、それぞれつぎのような有利な環境にあった。まずアメリカでは、放送局1局あたりの電波塔の数が平均で4基(日本では約90基!)と極端に少なく、新しい周波数の使用が容易であった。またイギリスは地域あたりの放送局数が少なく、また平坦な地形から日本に比べてはるかにデジタル化が容易な国である。その両国ですら地上波デジタル放送のビジネス上の成果は今のところまったくはかばかしいものではない。地形的に複雑で地方放送局が多いイタリアやドイツでは、こうした先進国の実例を見て地上デジタル放送の実施計画を修正しようとしている。

日本には「アナアナ変換」という、目測不可能なハードルがその前に立ち塞がっているのだ。仮にアナアナに対し2,000億円以上の財源を確保し、苦難の末に地上波デジタル放送へ道が開けたとしても、米・英の失敗例のごとく、その先のビジネス展望は暗いと言わざるをえない。

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