デフレと闘い、新時代をひらく [Page2]
〜 日本経済を甦らせるために 〜
二.目前のデフレを克服する即効的対策
■ 政策的に需要を喚起するのが鉄則
まず、物価が下落していても購買行動を先送りしないで、いま買う方が有利だと判断されるような条件を創出する必要がある。この点で最も効果的なのは税制度の活用である。税制度の抜本改革という中期的テーマに取り組む構えのなかで、経済活性化減税を先行させようという動きが出ているが、デフレ対応という観点から、これをいっそう大胆に実施すべきである。
@シルバー世代から現役世代への資産シフト

わが国の個人金融資産は一四〇〇兆円という高水準に達しているが、このうちの五〇%は六五歳以上の高齢者層に帰属している。この世代は、物的にはおおむね充足状態にあるので、購買力化しにくく、膨大な貯蓄が凍結状態におかれている。これを解凍することができれば大きな効果を生むはずである。そこで、貯蓄水準の高いシルバー世代から現役世代への資産シフトを促し、これによって現役世代の需要を喚起することが有益である。

たとえば、住宅取得と抱き合わせで資産の生前贈与を思い切って拡充すれば、大きな有効需要誘発効果が期待できる。バリアフリー住宅の取得促進は、デフレ対策としてのみならず、高齢社会への対応としても有意義である。新エネ・省エネ住宅(エコハウス)や高度情報化住宅を推進するための予算・税制措置を講ずることも時代の要請にもかなっている。

また、シルバー世代の貯蓄を使って、例えば土地取得や耐久消費財購入など、現役世代の様々な需要を充足することができればいっそう大きな需要を生み出すことができる。そのために、贈与税率を相続税並に引き下げるとともに、最終的に相続段階で調整する累積課税方式を導入することも検討すべきである。

A将来不安の解消による消費意欲の回復

さらに、現在は冷え込んでいる消費者マインドを解凍できれば、その効果は大きい。 その点で、年金制度を中心とする社会保障制度の将来像を信頼度の高い形で明確に示し、将来への不安を解消することが急務である。

特に年金制度の信頼度を高めるために、給付水準を含め制度全般の見直しを平成十六年度に断行すべきであるが、最大の問題は財源措置である。これについては、基礎年金の国庫負担を1/2に引き上げると共に、消費税率を二%程度引き上げることによって財源を確保することを同時に決定すべきである。このように万全な将来像を示すことが国民の将来不安を解消させ、ひいては消費意欲の回復にもつながることが期待できよう。

B新規投資促進税制等による企業活動のバックアップ

デフレからの脱出に焦点を合わせると、基本になるのはやはり企業である。企業は物価が下がり続ける中でもなおかつ利益を生み出せる態勢にならなければならない。そのために、たとえば新エネ・省エネ関連の技術開発・設備投資や省力化投資を行なう企業には投資減税などで支援する。また、先端分野への新規投資に対しては、投資税額控除や加速度償却などで強力にバックアップすることとする。たとえば、IT、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー等の新技術を活用した環境保全技術の研究開発を促進するため、国の研究開発基盤の整備を進めるとともに、産学官連携による研究開発を推進する措置を講じ、我が国の環境関連産業の国際競争力の強化を図る。

こうした政策を、素早く、かつ大胆に実施することが重要である。

■ 将来につながる分野への財政支出を優先的に増加させる

中央及び地方政府の財政支出を増加させることも必要である。前年度比で、どこまでプラスにするかがポイントである。

民需がいずれも減少傾向にあるなかで、財政支出まで前年度比マイナスでは、デフレを加速させるだけである。新規発行国債を三〇兆円以内に押さえることを前提として編成された平成一四年度予算は、一般歳出が前年度比マイナス二・三%となっており、デフレ対応という観点からすれば、はなはだ不十分と言わざるを得ない。

確かに歳出構造を新しい時代のニーズに合ったものに組替えることに大変な困難が伴うのは事実であり、過去においてもそうした努力はおおむね既得権益グループの激しい抵抗の前に失敗を重ねてきた。そうした苦い経験に照らせば、三〇兆円枠という一定の制約を課すことで歳出構造の変更をめざす手法には、ポリティカルエコノミーの観点から一定の戦術的な意義も認められる。

しかしオーバーキルの可能性も無視できない現下の差し迫った経済情勢を考えれば、将来ビジョンの選択やそれに見合う形での歳出構造の組替えを完了した後で財政の本格出動に踏み切るという時間的な余裕は許されていない。これらを同時並行的に進めていかざるを得ないからこそ、一段と強力な政治的リーダーシップが求められてもいるのである。

そこで、一四年度当初予算の執行は思い切り前倒しし、年度の早い時期に財政投融資を含め大胆な補正予算編成に乗り出すべきである。「デフレからの脱却」を真摯に考える以上は、こうした対応もやむを得ざる選択である

■ 財政支出はどこにつぎ込めばいいのか

デフレ対策という点だけから言えば、とにかくできるだけ沢山の資金をつぎ込むことが重要である。投入分野を特定する必要はないが、わが国財政の窮状を考えれば、無駄な支出は当然慎まねばならない。また、構造改革の先送りにつながるような支出も断じて避けるべきである。波及効果が大きく、しかも将来ビジョンにも見合う形で将来につながって行くものを選ぶべきである。その意味で、研究開発、環境・エネルギーなどの分野は有望である。

@PFI活用による国公立大学・研究施設の充実

古色蒼然たる国公立大学のキャンパスを先端的諸設備の完備したものに整備し、国公立の研究所なども同様に更新する。これらの多くは、近々、独立行政法人化が予定されているので大規模な国費投入は適当でないが、たとえばPFIを活用して、施設の整備事業を繰り上げ実施することは可能である。最先端の設備を整えているはずの先端的大学や研究所の多くが、まるで昔の防空壕のようなおそまつな状況におかれている。むき出しのパイプが天井をはっている研究室も珍しくない。「外国の友人が訪ねてきたが、あまりに恥ずかしくて案内できなかった」という話も聞くが、こうした状況は今こそ解消すべきである。

Aグリーン購入や自然再生事業への財政支出の積極化
環境負荷の少ない製品・サービスの市場を拡大するため、政府による率先購入(グリーン購入)を一層推進するとともに、グリーン購入を国民一般に広げていく施策を講ずる。また、自然が失われた都会や自然環境が損なわれた地域において、自然の再生・創造を行なう制度的枠組みを創設し、地域住民、環境NPO等の力を活用しながら「自然再生事業」を推進することにより、地域における環境創造と雇用創出を図る。 これらの施策は、財政支出の新分野として期待されると共に、京都議定書のCO2六%削減の国際目標の達成に資するものである。
B更新投資の掘り起こし
国の重要施設や設備で老朽化により業務に支障をきたしているようなものの更新も必要だ。例えば老朽化の著しい海上保安庁の巡視艇を一気に更新して高速化をはかり、防弾性能を高めるなど装備の近代化を進めることは、安全保障上の観点からも望ましい。
■ 国民が「日本売り」に走る恐れ

デフレの渦中にある今日の日本経済において、なによりも怖いのは日本国民による「日本売り」という事態である。これだけは、何としても避けなければならない。

外国人投資家による日本売りは、折にふれて日本経済を脅かしている。株も円も国債も売られ、いわゆるトリプル安に見舞われる局面である。ただ、外国人投資家だけによる日本売りなら、まだ「限度のある動き」であり、対処もできる。しかし、日本国民全体が日本売りを始めたら、大激流となって日本経済は持ちこたえられないだろう。実質的なゼロ金利や銀行への不信の高まりから、国民が一斉に円を手放し外貨預金に走る。手持ちの預金をドル預金やユーロ預金に切り替えるという最悪の展開である。もし、こうした動きが本格化し、キャピタルフライト(資本逃避)に見舞われることになれば、日本経済は失血¥態に陥る。

こうした事態を回避するには、政府に対する信任を確保し、政府のデフレ対策に対する信頼を万全のものにする必要がある。政策が、いわゆる小出し≠ノ終始したり、指導者の軸足がブレたりすることは最も避けるべきことである。わずかな不信がきっかけとなってキャピタルフライトを引き起こす懸念があるからである。

■ 円安誘導は危険である

最近一年の円安傾向が景気下支えに一定の効果があったことは事実であるが、このことをみて一部に、デフレ対策として意図的な「円安政策」を提唱する考えもある。戦前の英国や米国が、ポンド安、ドル安でデフレから脱出した経験が背景となっている。確かに、デフレは通貨価値が上がる病気だから、通貨の値打ちを下げるベクトルを強めるのが有効な手法であることは間違いない。

しかしながら、現代においては通貨価値を自在にコントロールする手段を欠いていることに留意すべきである。当時の英米両国は金本位制度をとっていたから、自国通貨の価値を目標レベルまで引き下げたうえで、そこへ釘付けにすることが可能であったが、今の日本にはそれができない。現代においては、為替相場は基本的に市場実勢に委ねるほか術が無いからである。意図的に円安誘導をすると、本格的なキャピタルフライトを引き起こすきっかけになる恐れがきわめて大きい。

同様にインフレターゲット論も、理論的根拠が不確かでリスクがあまりに大きく、実際にこれを選択できるかは疑問である。

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